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私は正常な人間ですが

1 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 22:16:23 ID:dzmifOCy
アトピーってつらそうですね。
私もジンマシンができてかゆみがつらくてつらくて・・

アトピーで生まれたら死んだほうがマシだと思いました。

2 : :04/11/10 22:21:18 ID:6PutfZFA
っていうかそれってアトピじゃねえのかよ

3 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 22:23:26 ID:dzmifOCy
いいえ、薬塗ったらなおりましたから。
それにしてもかゆみはつらかったです。
いろいろ痛みは経験してきましたがかゆみほどつらいものはない。
夜眠れずきつかった。
冬だと体を温めるとかゆくなるし、布団をはぐと寒い。
まさに生き地獄でした。

4 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 22:54:03 ID:boI29ZrK
リルガミン城・城外にある宿屋…の馬小屋。
「どうして馬小屋なんかで寝なくちゃいけないのよ!」
「仕方ないだろ、お金が無いんだから」
ふくれっ面のアスカにシンジがごくごく当たり前の理屈を繰り返している。
「有るじゃない」
シンジの荷物から小さな皮袋を取り出すアスカ。
「あっ!ダメだよ、アスカ!そのお金は装備品を買うために貯めているんだから」
「解ってるわよォ、うるさいわね男のクセに」
ぢゃらり、と言う音と共に皮袋がシンジに投げ返される。
その皮袋を荷物の中に戻しながらシンジがぶつぶつ呟く。
「自分こそ、女のクセにロードなんか目指すなよな…」
「何か言った?」
「何も…」
「…あ〜あ、こんなバカと馬小屋でザコ寝するくらいなら、加持さんの部屋に忍び込んじゃおうかなぁ」
「スイートルームは歳を取る速度が異常に早いわ」
馬小屋の隅からレイの声がする。
壁を向いて動かないから、てっきり眠っていると思い込んでいたアスカは不意を突かれた。
「む」
「第一、ニンジャマスターの部屋に忍び込めるレベルじゃないもの、あなた」
と、これもまた当然の事を言う。
「まったく!どーしてアタシってばこんな連中とパーティ組んじゃったのかしら」
反論の余地が無い話題を避けるため、アスカは話をそらそうとした。
「属性の条件、クラスチェンジの要望、冒険の目的…それらを考慮したら、誰もあなたとは組まないと思うわ」
だが、レイの声は容赦無くアスカの現実を浮かび上がらせる。
「だから感謝しろって訳?バッカみたい」
「静かにしてよ!明日もあの地下迷宮に潜らなくちゃならないんだ!休ませてよ!」
シンジが悲鳴を上げる。
彼は「シーフ」つまり盗賊である。
彼の重要な役目は、彼等のパーティが魔物との戦闘によって得た宝箱の鍵を開ける事にある。
彼の能力が低いと、宝箱の中の貴重なアイテムや金貨は手に入らず只働きと同じことになる。
…いや、場合によっては、パーティに重大な危機が訪れる事になるのだ。

5 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 22:55:35 ID:boI29ZrK
ガツガツという音が薄暗い空間に響く。
馬小屋の主である馬が蹄を地面に叩きつけているのだ。
小鳥のさえずりが遠くに聞こえている。
極度の緊張のため、泥のような眠りに落ちていたシンジがノロノロと上半身を起こす。
戸口の隙間から差し込む太陽の光が、馬小屋に飛散する塵を浮かび上がらせる。
「また、朝が来ちゃったな…」
膝を抱え込むようにしながらシンジが呟く。
少し離れた場所では藁束をクッション代わりにしたアスカが寝息を立てている。
赤いロングコートにくるまったその姿は「ここ」には似つかわしくないように思えた。
「アスカは、なんだってこんな街に来たんだろう?」
シンジは、この少女と初めてあった時から感じていた疑問を口に出してみる。
「アスカにもボクと同じ様な理由があるのかな…」
シンジにはその理由があった。
シンジの父、碇ゲンドウは流浪の剣術修行者であった。
ゲンドウは、シンジがまだ幼い頃から諸国を経巡り修行に明け暮れていた。
留守を預かっていたシンジの母・ユイが亡くなった時も、遠い異国の地に在った。
母親の葬儀が終わってから二ヶ月後、やっと帰還したゲンドウの行動は周囲の人達を驚かせた。
墓の前にドッカと腰を下ろしたゲンドウは、丸一昼夜無言で酒を飲み続けたのだ。
誰が止めても決して止める事は無かった。
幼いシンジの記憶はおぼろげで、その事を覚えていない。
ゲンドウが母の墓の前で何を考え、何をしたのか、知る者は誰もいない。
そのゲンドウがこの街・リルガミンからの手紙を最後に消息を絶ったのが半年前。
シンジは周囲の反対を押し切って、家出同然でこの街にやってきた。
シンジにはこの世界を一人で生きていく知識も技術も無かった。
だがしかし、この街はリルガミンなのだ。
狂気王・キールが支配する城塞都市・リルガミンに棲み付いた伝説の魔術師・
ワードナが、トレボー王の所持する魔力を秘めた護符を奪い去り、地下迷宮の奥深くに立て篭った。
怒り狂ったキール王は、ワードナから護符を奪い返した者には賞金と親衛隊入隊の栄誉を与えるとの布令を出した。
こうしてリルガミンには様々な腕自慢・魔術自慢が集まって来た。


6 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 22:56:44 ID:boI29ZrK
村を飛び出した時、シンジには父親に関する確たる情報もアテも無かった。
思春期特有の、激しい衝動に突き動かされただけなのかも知れない。
だからこの街に辿り着いた時は、安堵するより言い知れぬ不安の方が強かった。
知り合いのいないこの街で、はたして一人で生きていけるのか?
父の手がかりを掴む事が出来るのか?
それが出来たとして、その後は?
その日の夜は、木賃宿の薄っぺらい寝具の中で見知らぬ天井を見上げながらまんじりとも
せずそんな事ばかり考え続けた。
翌朝、シンジの充血した目を目聡く見つけた宿屋の女将さんが声をかけてきた。
「決心はついたのかい?」
「な、何の決心、ですか?」
いきなり声をかけられ、パンを千切る手が止まるシンジ。
「おや?あんた、王様の布令が目当てでこの街に来たんじゃないのかい?」
人の良さそうな女将さんは、事の次第をシンジに話して聞かせた。
シンジの頭の中で幾つかの単語がぼんやりとつながっていく。
腕自慢…賞金…修行…神秘の力…。
「まぁねぇ、あんたみたいな線の細い子には縁の無い話だよねぇ」
そう言うと女将さんは台所に引っ込み洗い物を始める。
シンジは朝食の残りをかき込むようにして済ませると宿を出た。
目指すは冒険者登録所だ。

キール王の布令によって集まった腕自慢達はいわば流れ者である。
中には素性の怪しい者や山賊まがいの者もいた。
得体の知れない者達を無条件で城下に住まわせるほどキール王は寛容ではなかった。
彼等は必ず「冒険者登録所」で姓名・年齢・出身地などを申告しなければならなかった。
そして一定期間「訓錬所」において自分に適した役割と技術を叩き込まれる。
人間相手の武勇伝がいくら有ろうが、地下迷宮に巣食う怪物相手では蟷螂の斧だ。
さらにそこで会得した技術を悪用させない為に、基本的な居住空間を限定される。
一種の全寮制職業訓練校だと考えればいいだろう。
人格を認められた一部の者は街中に出かけることも可能だが、万が一住民とトラブルを起
こしたならば厳しい裁判を受けねばならず、場合によっては死罪もある。


7 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 22:57:18 ID:boI29ZrK
冒険者になるための資格は無い。
年齢・性別・身分・種族などという浮世での区別差別などとは無縁な世界なのだ。
本人の意志があればそれだけでよい。
未熟な者でも冒険者を自称する事は可能であるし、また地下迷宮への出入りも許可される。
その結果、命を落とす事になろうとも、全ては自己責任という事なのである。
ある時、10才くらいの子供が棒切れを携えて登録所に現れた事があった。
父親が地下迷宮から帰ってこないので探しに行きたいと言うのだ。
登録業務を行っていた初老の男は何も言わずに書類を作成し、そして自ら教官となって厳
しい修行を行わせた。
傷つけば治療系呪文ですぐさま回復させられ、へばってうずくまればすかさず火球が皮膚
を焼いた。
見兼ねた冒険者の一人が、俺達が捜して来てやるよと言うと子供はこう返事した。
「オレの父ちゃんだ。オレが探してやらなくちゃならないんだ」
1か月後、初老の男の木刀を何とかかわせる様になった頃、子供は地下迷宮に潜った。
「よぉ坊主。親父さんの捜索、俺達にも手伝わせてくれないか?」
その日『偶然』ヒマを持て余していた5人のマスタークラスとパーティを組んで。
現在、この子供は父親を蘇生させる為に必要な寄付金を作る為、普通の仕事をしている。

この話を聞いてこう言う者がいる。
「回りくどい事をせずに、こっそり探して来てやりゃあ良いじゃねぇか」
確かに、地下迷宮で行方不明になった冒険者を有償で探索・治療する集団はいる。
だがこの子供は自分の手で探したいと言い、その為の努力を続けたのだ。
だからこそ、すれっからしのひねくれ者達が助力したのだ。
人の善意は貴重なものではあるが、それがいつも期待できると考えるのは間違いであろうし、
単に依存心を強くさせるだけならば有害でさえある。


8 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 22:57:45 ID:boI29ZrK
シンジが登録所に着いた時、先客が2人いた。
コートのフードを深く被った物静かな少女と、真紅のコートを羽織った金髪の少女である。
「今日は子供の登録者が多いな…」
シンジを一瞥して登録官が呟く。
5分ほどの問診で聴取した情報が書かれた書類を手渡され、訓練所に行くように言われた。
そこで適正検査があるという。
シンジは少し不安になった。
戦うという事が苦手なのだ。

「えぇ〜っ?ロードにはなれないぃ〜!?」
真紅のコートの少女が情けない表情をして担当官と話している。
「残念だが能力が足らない。基本クラスでしばらく経験を積むといい」
「国じゃあ神童と言われたこのアタシが…」
「確かに能力は高い。だがそれは一般社会でのことだ。ここは規格外なんだ」
金髪の少女はブツブツ言いながら魔術師を選択した。
戦士以上の剣術と治療系呪文を駆使するロードになる前に、攻撃系呪文を覚えようと言う
のだろう。
一方、フードの少女は迷う事なく僧侶を選んだ。
治療系呪文を操る、パーティには無くてはならない存在。
イザとなれば、直接戦闘にも加わる事が可能な職種である。

シンジは盗賊を選択した。
戦闘が苦手な事と、手先が器用な事が最大の理由だ。
無論、盗賊とて前衛が戦闘不能になれば短刀を抜いて戦わねばないのだが…。
最大の長所を伸ばすのがここで生き残る手段だと言われたのだ。
腕のよい盗賊は、それだけで重宝される人材である。

職種が決まると3人は早速それぞれの師匠について修行を始めた。


9 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 22:58:17 ID:boI29ZrK
「こんな所で話を聞くより、一度地下迷宮に潜った方が勉強にはなるんだが、それじゃあ
ほとんどの奴等が死んじまう」
だからこうやって教えなくちゃあならんのだが、と師匠が笑う。
「俺達『盗賊』の仕事は戦うことじゃない。薄暗い迷宮の中で隠し扉を見つけたり、宝箱
の鍵をこじ開けたりする事が求められる」
場合によっちゃあ地図作りもな、と苦笑いの師匠。
「他の連中も同じ事を聞かされているだろうが、パーティを組んだらそこでの役割分担を
決めろ。そして、それに責任を持て」
シンジは少し驚いていた。
てっきり盗賊としての修行が始まるものだとばかり思っていたのだ。
シンジの表情に気付いた師匠は、ガイロンだガイロンと念押しする。
「どんな連中とパーティを組もうがそれは自由だ。だがな、そこに集まった奴等が好き勝
手に行動していちゃあ…そいつ等はまとめて墓場行きだ」
師匠が両手を組み合わせて祈る仕草して見せる。
「そうなりたくなけりゃあ、そこで自分がすべき事・できる事と、出来ない事をはっきり
させろ。そして補い合うんだ」
だから各職業についての簡単な知識が必要だと言う。
「簡単に言えば剣で直接戦う奴と魔法で戦う奴、魔法で手助けをする奴と技術で手助けす
る奴だ。俺達の役割は?」
「技術で手助けする、ですか?」
「そうだ。魔法は使えないからな。あぁ値は張るが魔法を封じ込めた道具もあるにはある
から、金が貯まったら探すといい。さて…」
一息入れ、腰から小物入れを取り出しシンジの目の前で広げて見せる師匠。
「これが鍵開けに必要な道具だ。本当はもっとあるんだが、まぁ勘弁しろ。なにしろメシ
の種だからな」
意味が解らないシンジ。
「…オレはまだ現役なんでな。手の内を全て明かしたくないんだよ。お前はお前自身で経
験を積んで自分なりのモノを作れ」
「はい…」
シンジの盗賊としての修行はこんな風に始まった。


10 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 22:58:46 ID:boI29ZrK
初日の修行を終えたシンジは冒険者達が集まる酒場へと向かった。
『ギルガメッシュの酒場』と言う名前のその店は、酒や食事はもとより、仮初めの恋人まで備えている。
地下迷宮でくたびれた身体や精神を癒す為には、本能に訴える楽しみが必要なのだ。
美味い物を喰らい美味い酒を飲む。
気に入った相手がいれば、さらに親睦を深める努力を行えば良い。
ルールを守る限りは誰も文句を言わない。
地下迷宮に出入りしている者達は、その多くが「金」を持っている。
技術や情報を金に変える事は簡単であり、その金と「商品」を交換するのはもっと簡単な事だ。
この店にはそうした売り手・買い手が数多く出入りしており、双方の利益を守る為に不文
律がある。
『騒ぎを起こすな・イザコザを持ち込むな・迷惑な呪文使用禁止。
これを破る者にはその行いにふさわしい罰を与える』
何時の頃からかこの様な警句がここに集まる者達の間に広まっていった。

「おや、新入りだね」
シンジが酒場に足を踏み入れると老ウェイターが声をかけてきた。
「は、はい。どうして…」
「解るのさ。足運びから雰囲気まで全てが素人臭い。だが『何か』を教えられている。
…そうだね、盗賊になって間もないって所だね」
シンジは驚いた。
ここに来るのは今日が初めてなのだから新入りだと看破されるのは当然としても、何故盗賊だと
解ったのだろうか?
シンジの顔色を窺っていた老ウェイターは笑いながら答える。
「あの騒ぎからこっち、ずーっと連中を相手にして来たのさ。この商売、相手の素性を嗅ぎ分ける
ハナが利かないといろいろと不便なんでな」
酒場のウェイターでさえこの眼力である。
修羅場をくぐった冒険者の実力とはどれ位のものなのだろうか?
「驚かせた様だな。まぁここの不文律を守って、ガンガン稼いで金を落としてくれよ」
ウェイターは隅っこのテーブルをシンジに勧めた。


11 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 22:59:15 ID:boI29ZrK
「もう一度言ってみなさいよッ!」
聞き覚えのある声が酒場に響く。
シンジが声のする方に振り返ると、訓練場で見た金髪の少女が立ち上がって図体のでかい男と
相対している。
「テメェみてぇなヒヨっ子はいくら修行したって呪文ひとつ覚えられねェ、って言ったのさ」
「言ったわねぇ…。見てなさい!」
大男を睨み付けたまま、金髪の少女が小さく何事かを囁く。
「ダ、ダメだ!」
シンジが少女を制止しようとしたその時、後ろから少女の口を大きな掌が塞ぐ。
「相変わらずオテンバだな、アスカ」
男の右手が少女の肩をポンポンと軽く叩く。
「加持さん…」
「よ、久しぶりだな。すっかり大人っぽくなったじゃないか」
「当ッたり前でしょ?アタシ、14才になったんだから」
「リョウジの知り合いかよ」
舌打ちをしてその場から立ち去ろうとする男にリョウジが声をかける。
「ドラムロ、俺の知り合いが世話になったな。今度修行の相手をしてやろうか?」
リョウジの声に静かな怒気を感じてぎょっとするドラムロ。
ドラムロは未だレベル7の戦士であり、リョウジはマスターレベルを遥かに超えたニンジャなのである。
試合をしたとしても一方的な展開になるであろう。
「ごめんだね」
そう言ってドラムロは酒場を出て行く。
「気をつけろよアスカ。ここにはここのルールがある」
リョウジがアスカにお説教を始める。
「ここにいる皆はそれを知っている。だが君を止めようとした者は一人だけだった」
リョウジの視線が隅っこのテーブルにいるシンジを捉える。
「大切な友達に挨拶をしておこうか」
リョウジに促されてアスカが隅っこのテーブルに近付いて行く。


12 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 22:59:43 ID:boI29ZrK
俯いてスープをすするシンジの視界に人の影が映り込む。
ゆっくりと頭を持ち上げると、そこには腰に手を当てて仁王立ちした金髪の少女がいた。
「や、やぁ」
ぎこちない笑顔を向けるシンジと、無言でシンジを睨みつける少女。
無言の圧力に耐え切れなくなったシンジは、視線を落とし再びスプーンを動かし始める。
思い切りしかめっ面をすると少女は、後ろにいた青年を振り返り言い放つ。
「こんなヤワなヤツじゃ、アタシの仲間にはなれないわ!加持さんの勘違いよ」
「アスカ、挨拶も出来ないのか?…や、すまない。この子も悪気はないんだ」
座って良いかい?と尋ねながら少女を無理矢理に座らせる青年。
「俺は加持リョウジ、御覧の通り同業者だ。この子は忽流・アスカ・ラングレー、君と同
じ新入りだ。2年前に同じ街に住んでいた関係で、この子のこの街での身元引受人をしている」
ウェイターが注文を取りに現れる。
肉料理と酒を注文したリョウジは、シンジの分を自分の勘定に加えさせる。
「さっきのお礼だ、奢らせてもらうよ」
そう言うと食前酒を一気にあおるリョウジ。
「ぼ、僕は、僕は何も…できませんでした。だから…」
スプーンを皿において俯くシンジ。
腕を組んだままシンジを観察しているアスカ。
両者を見比べながら言葉を続けるリョウジ。
「少なくとも君は『ここ』のルールを知っていたし、それを破ろうとしたアスカを止めよ
うとしてくれた。その事に対する礼だ、遠慮はいらない」
「加持さんが教えてくれていたらアタシだってあんなヘマはしなかったわよ」
うんざりした表情でアスカが異議を唱える。
「アスカ。じゃあ俺がいない世界ではどうするつもりだ?」
「え?」
「この街は、いやここの地下迷宮は常に死と隣り合わせだ。俺とて例外じゃあない」
沈黙するアスカに対して真面目な表情のリョウジが言葉を続ける。
「『大人になる』という事は、自分の面倒は自分でみる、という事だ。ハナから俺の力をア
テにしているアスカはまだまだ…」
「解ったわよォもう!加持さんのイジワル…」


13 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:00:06 ID:boI29ZrK
酒場の入り口でシンジ達を見つめている二人連れがいる。
真っ白い法衣をまとった長身の女性とフードを目深に被った小柄な少女である。
「あの二人ね?」
こくり、と頷く少女。
「早速パーティを組む相談かしら。話が早くて助かるわ」
そう言うと長身の女性が静かに隅っこのテーブルに歩を進めて行く。

背後の気配に気付いたリョウジがグラスを掲げて振り返る。
「これはこれは。久しぶり」
小さく右手を上げて応える長身の女性。
「加持君も相変わらず元気そうね。良かったら紹介していただけるかしら」
見知らぬ女性とリョウジと親しげに話しているのが気に入らないアスカ。
「こちら王立魔法技術院・技術局局長の赤木リツコ師。怒らせると怖い」
「子供の前で何言ってるの」
くすくすとリツコが笑い、『子供』と言う言葉でアスカの機嫌が悪くなる。
「この子は忽流・アスカ・ラングレー、プロイセンにいる知人のご息女だ。で…」
しまった、という表情をするリョウジ。
「そういえばまだ名前を聞いてなかったな。君の名前は?」
「シンジ。碇シンジ、です」
リョウジの表情がほんの少しだけ変わる。
いや、リョウジだけではない。
リツコも一瞬驚愕の表情を見せたものの、すぐに表情を整える。
それには気付かないアスカとシンジ。
リツコの白い法衣の影からジッとシンジを見つめている少女。
その視線に気付くシンジ。
「レイ。皆さんにご挨拶しなさい」
シンジとアスカを交互に見やって少女はフードを下ろす。
紅い瞳をしたその少女は、レイと呼ばれていた。
「あ〜〜ッ!ファースト!」
アスカの声が酒場に響く。


14 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:00:31 ID:boI29ZrK
First(第一の、最初の)
アスカは何故レイの事をこう呼ぶのか?
あの日、一番乗りするつもりで出かけたアスカが登録所で見たのがレイなのである。
開門一時間前だと言うのに、レイは既に門の前に立っていたのだ。
プロイセンでは神童ともてはやされ、さらなる栄光を求めてこの街に来たアスカ。
自分の事を誰も知らない新天地で、自分の才能を最大限に活かして1になる。
そのためのささやかな第一歩がもろくも崩れ去った一瞬であった。

「しかしシンジ君、君のお父上はよくこんな町に来る事を承知したな」
五人で夕食を食べながらリョウジが尋ねる。
シンジが静かに経緯を話した。
「なるほどな…」
リョウジの視線が一瞬リツコに注がれる。
「私が知っている事は少しだけ。とても強い剣術家で、魔術に関心があるのでワードナの
魔術を研究したい、とも言っていたわ。そしてある日忽然といなくなったの。行方は誰も知
らない。別の街に行ったとか、迷宮で行方知れずになったとか、噂はいろいろあるけれど」
ワイングラスを弄びながらリツコが話す。
「父さんの、死体…を見た人は、いないんですね…」
シンジの言葉に黙って頷くリツコ。
「生きて…いるかも知れないんですね」
「そうかも知れないし、灰となり塵に還ったのかも知れないわ」
「りっちゃん!」
「重大な事よ。気休めなんか言えないわ」
リョウジの言葉を冷たい視線で跳ね返すリツコ。
「そうだとしても、やります!僕は…僕は父さんを探します」
シンジの言葉を聞いてリツコの唇が微妙に吊り上る。
「そこで提案があるの。ここにいる3人でパーティを組んでみないかしら?」
「この子達だけでか?前衛がいないじゃないか」
驚くリョウジに、意味ありげな笑みを返すリツコ。
「安心して。素敵なプレゼントを用意したわ」


15 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:00:57 ID:boI29ZrK
夜の帳が降りたリルガミン城下を五人の男女が歩いている。
武器・防具を身に着けていないとはいえ、これはどうした事か?
ニンジャや盗賊が夜の街中を歩いているのに、衛兵が咎める素振りさえみせない。
「さすがは赤木リツコ師、威厳があるな。…もうタメ口も利けないか」
冷やかす様な口調のリョウジである。
「加持君だってその気になれば親衛隊の小隊長くらいすぐになれるのに。宮仕えは嫌い?」
「あぁ、もうこりごりだ。俺は、俺の心に素直でありたいね」
「もったいないわね、その力」
リョウジを振り返る事なくリツコが残念そうに呟く。

一行は高い壁に囲まれた建物に着いた。
ばらばらと警備兵が集まり一行の顔をランプで照らし出す。
「局長?こんなお時間にいかがなさいました?」
指揮官らしき男が一行の中にリツコの顔を見つけて思わず叫ぶ。
「夜勤お疲れ様です。こんな時間ですが、被検者を連れて来ました。用意をお願いします」
その言葉を聞いて兵達が慌てて門を開く。
昇降機に乗り込み地下へと降りていく一行。
やがて昇降機は停止し、リツコを先頭に下りていく。
ポツ、ポツ、と灯が灯り周りが見渡せる様になると、シンジ達の眼前に奇怪な物体が現れた。
それは身長が2mを軽く越える武装した巨人達であった。
「リルガミン王立魔法技術局が開発した凡用人型決戦兵器・ホムンクルス『エヴァンゲリオン』よ」
「完成、していたのか…」
リョウジの呟きを無視してリツコがシンジ達に説明する。
「この巨人達は人間の意志を使って制御する事ができます。具体的に言えば、このティア
ラを装着した者の思考を伝える事ができます。貴方達はこれで巨人を操りながら地下迷宮
を探索するのです」
ティアラを手に持ったリツコがシンジ達に近付いてくる。
圧倒的な力を与えてくれるであろうそのティアラにシンジは恐怖した。


16 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:01:27 ID:boI29ZrK
「どの巨人を操るか決めて頂戴」
リツコがシンジ達に告げる。
少し躊躇してアスカが赤揃えの武具に身を包んだ巨人を睨んで言う。
「これにするわ」
「じ、じゃあ僕は、紫の…」
「ではレイの相手は『ゼロ』で決まりね」
リツコの台詞にシンジが意外そうな顔をする。
「名前があるんですか?」
ティアラをそれぞれの頭に取り付けながらリツコが答える。
「当然でしょう?人工的に造られたとはいえ、思考する力もあるんだから。自分が何者で
あるのか、きちんと理解してもらう必要があるもの」
「自分で考えられるなら、アタシ達が制御する必要なんてないじゃない」
「貴方達は安全装置よ。エヴァが完全に覚醒すればこの街…いえ、この大陸さえ無事では
すまないはずだから」
おっかない事言わないでよ、と肩をすくめながらアスカがおどける。
だが、彼女の顔には無限とも思える『力』を手にした恍惚が見て取れる。
「シンジ君の選んだ巨人が『ショゴウキ』、アスカの方は『ツヴァイト』よ」
シンジは『ショゴウキ』を見つめる。
紫色の武具に身をよろった巨人。
兜や肩当から突き出ている突起物は近接戦闘時のためのものなのだろうか?
「オニ…」
ふとシンジは子供の頃に父から聞かされたお伽話を思い出していた。
前頭部に一本あるいは二本の角を生やした、剛力を誇る怪物。
畏れ敬われ、時にはその時代の権力に真っ向から敵対した怪物達…。
何故、巨人から『オニ』を連想したのかシンジには解らなかった。
風貌か雰囲気か、はたまた直感的に感じた『力』のせいか?
巨人はただ静かにシンジを見下ろしている。


17 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:01:51 ID:boI29ZrK
「今から制御実験を行うわよ、いいわね?」
準備を終えたリツコが三人に指示を出す。
「今からぁ?」
アスカが顔をしかめて見せる。
既に真夜中と言ってもいい時間なのだ。
訓練所での疲労が睡魔と手を組んでアスカに襲い掛かっている。
「今夜はここに泊まるといいわ。フカフカのベッドを用意させるから」
リツコの提案は、アスカの心をほんの少しだけ揺るがせた。
「…朝食は出るんでしょうね」
「お好みのものを用意させるわ。やってくれるわね?」
「アタシの舌は肥えてるわよ」
遠回しな言葉で同意するアスカ。

「手始めに挨拶を済ませましょう。名前を呼びかけてみて頂戴」
リツコの言葉に従う三人。
「え、っと、その、碇シンジです…よろしく、ショゴウキ」
傍らで頭を抱えるアスカ。
「アンタバカァ?私達はコイツ等に命令する立場なのよ?もっとビシッとしなさいよ」
そう言うとアスカは『ツヴァイト』に歩み寄り、腰に手を当てて胸を張る。
「いい事?ツヴァイト。今日からアタシが貴方の命令者よ。いい仕事を期待しているわよ」
どうだ!とばかりにシンジを振り返るアスカ。
ぽかんと口を開いたシンジの顔を満足そうに眺めてから気になるレイを探す。
レイは、その場から無言でゼロを見つめていた。
シンジ達のように言葉をかけたりはしない。
無表情なままじっとゼロを見つめている。
ゼロの仮面に開いた一文字の隙間に、突然鈍い光が灯る。
「ゼロ、覚醒を確認」
リツコの言葉に、アスカが訝しげな表情を見せる。
「覚醒?アタシ達のエヴァは変化がないわよ?」
「ただ声をかけるだけじゃあダメなの。ティアラを通して思考を伝えなければ、エヴァ達
は反応しないわ」


18 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:02:16 ID:boI29ZrK
リツコに促されて再びエヴァの前に立つアスカとシンジ。
集中するために目を閉じて、ゆっくりと一言ずつ声に出して語りかける。
だが、何の変化も見られない。
「本当に生きているんでしょうね、これ?」
あまりの無反応に、アスカが疑問を口にする。
「生きているわよ。ただ深い眠りに落ちているだけ。そこから目覚めさせるのが貴方達の
最初の仕事ね。…レイ、貴方はもういいわ。下がって休みなさい」
「はい」
短く答えると部屋を出て行くレイ。
だが、ドアの前で立ち止まるとシンジ達を一瞥する。
「…エヴァにも『心』があるわ。貴方達も、自分の心を開放して接しなければエヴァは
応えてはくれないわ」
そう言い残して出て行く。
「何よそれ?アタシ達がコイツに気を許して無いって言うの?」
「…かも知れない。だって、僕、このエヴァが怖いもの」
「なッさけ無いわねぇ!こんなのの、どこが怖いって言うのよ」
「なんていうか、その、引きずり込まれそうな感じがするんだ…」
エヴァを見て感じた事を話すシンジ。
「それは一部正しいわね」
リツコがシンジの言葉を引き継ぐ。
「エヴァを制御するために貴方達の思考がエヴァに伝わるのだけれど、逆にエヴァの感じ
た事も貴方達に伝わるの。だから戦いの最中にエヴァが傷つけば、その痛みが貴方達を襲
う事になるわね。当然、エヴァが『考えている事』もね」
今度はアスカが絶句した。
「ちょっと待って!じゃあ私達はその苦痛に耐えながらコイツを操って、しかも呪文を唱
えなくちゃならないの!?」
「えぇそうよ。だけどエヴァが覚醒すればする程能力が高まるから安心して。例えば、エ
ヴァが装備しているのは防具と言うよりも拘束具なの。貴方達が制御し易い様に動きを制
限しているのよ。エヴァが覚醒しても貴方達の制御が完璧なら、これをはずす事で運動性
能が上がるわ」


19 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:02:46 ID:boI29ZrK
「でも、それじゃあエヴァの防御力が弱まるんじゃあ…」
もっともな疑問を口にするシンジ。
「エヴァが覚醒すれば能力が上昇すると言ったわよね。エヴァはATフィールドと言う障壁
を発生させる能力があるの。自分の身が危険にさらされた場合にその危険を跳ね返す、ま
さに絶対的空間を作り上げる事ができるのよ」
「絶対的…空間…」
「そう。本来はあらゆるモノが持っていた能力らしいのだけれど、長い年月を経て忘れ去
られていった様ね…。今では、僅かに書き残された魔導書にその名残を見るだけ」
「あらゆるモノが…持っていた、ちから」
「そう。そしてその力を応用して…いえ、これはまだ貴方達には早すぎるわね。とりあえ
ずエヴァを覚醒させる事に専念して頂戴」
リツコがシンジ達にハッパをかける。

結局その日の夜は、ゼロ以外は何の反応も見せなかった。
少しだけプライドを傷付けられたアスカは、用意された寝室に無言で引っ込んだ。
柔らかいベッドに不慣れなシンジは眠る事ができない。
幾度と無く寝返りを打ちながら考える。
僕の心が伝わる、エヴァ。
エヴァの心が伝わる、僕。
エヴァを操る、僕。
だとしたら…エヴァが僕を操る事も有るんだろうか。
そこまで考えて身震いがした.
自分の思考を持ちながら、別の誰かに操られる…。
シンジがシンジのままでいながら、シンジが望まない事をやらされたら…?
嫌だと思うし、その呪縛から逃れたいとも思う。
どうすれば逃れられるのか?
…操っている相手を逆に操れば、いい。
思考が堂々巡りになって行く。
…エヴァにも『心』があるわ…
シンジの脳裏をレイの言葉がよぎっていく。


20 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:03:31 ID:boI29ZrK
リツコの研究室。
椅子に座ったリョウジが左手の酒杯を眺めている。
よく磨かれた純銀製の酒杯の表面は鈍い光沢を放ち、取っ手などには技巧を凝らした彫
刻が施されている。
指で弾き、爪をたて、懐から取り出した金属片で引っ掻く。
そして歯で噛み、舐め、本当の銀製品である事を確認する。
「友人が出す飲み物が信用できないようね」
ワゴンを押して部屋に戻って来たリツコが、リョウジの行動に苦笑しながら近付く。
「意外な事態の進展に臆病風がちょっと、な。…何をやろうとしているんだ?」
悪びれずに答えて立ち上がり、酒盃を掌で撫でつけるリョウジ。
純金・純銀製の食器はある種の毒物に敏感に反応する事から、暗殺を恐れた王侯貴族の間
では贅沢品としてではなく当然の習慣となっていた。
つまり、今夜の一件を体験したリョウジはリツコに対して警戒心を持ったのだ。
椅子に戻ったリョウジに無言でワインボトルを差し出すリツコ。
ボトルも確かめて見たら?と言う意味だ。
地下迷宮での功績を認められ、王立魔法技術局局長に抜擢された大司教・赤木リツコ。
彼女の力をもってすれば、未開封のボトルの中に毒物を混入させる事など簡単な事だが。
恭しくボトルを受け取るとコルク栓やロウをちらりと見ただけでラベルに見入る。
「こりゃあいい酒だ。葛城に話したら悔しがるだろうな」
「ミサトはビール党でしょう?」
「こういうものはまた別腹らしい」
「詳しいのね」
ははは、と笑ってごまかしボトルをリツコに返す。
オープナーを使ってコルク栓を抜くとリョウジに手渡す。
匂いを嗅いでニンマリするリョウジ。
リツコがそれぞれのグラスに中身を注ぎグラスを差し出す。
「友情に」
「信頼を」
かちり、と言う音がしてグラスが合わさる。
二人は同時にグラスの中身を飲んだ。


21 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:03:55 ID:boI29ZrK
「…で、何故シンジ君にあんな事を?」
ボトルの重量が、瓶本来の重さにまで減少した頃リョウジが切り出す。
きらびやかな装飾が為された細長い煙管でタバコをくゆらせていたリツコが答える。
「まだ本当の事を知る時期ではないの。それに上手く行けば自分の手で真実に辿り着くわ」
「何が狙いなんだ?」
「職務上の秘密よ」
これだから宮仕えは…と頭をかくリョウジ。
「他言は無用よ。エヴァがある限りあの子達の安全性は高いから安心して頂戴」
「絶対、ではないだろう?」
「今のこの世で絶対と言える事は一つだけよ」
「それは、何かな?」
「この世に絶対なんて事は『絶対に無い』よ」
苦笑いするリョウジ。
「アスカは知り合いの娘さんなんだ。なるべくなら…」
「それなら地下迷宮なんかに入らせない事ね。もし自分の意思で入るのなら、その責任は
自分で取るべきよ。それがあの地下迷宮のルールではなくて?」
リョウジの言葉をぴしゃりと押さえ込むリツコ。
「そりゃあそうだが…まぁその通りだな。彼女達の健闘を祈るか。…ところで」
リョウジが椅子の上で姿勢を変える。
「あの子…レイはどういう子なんだ?」
「私の秘蔵っ子。それ以外は詮索無用よ」
「隠し子、と言う事はない、よな?」
「誰の?」
リツコの表情が微妙に変化する。
「…いや、何でもない。忘れてくれ。ちょっと酔ったみたいだ。俺の部屋もあるんだろう?」
「部屋はあるけれど、むやみに動き回らない様にして頂戴」
判っているさ、と手を振りながらリョウジが立ち上がるとリツコが部屋まで案内する。
案内されたのは豪奢な調度品の並ぶ贅沢な造りの部屋だった。
鍵穴を確かめてみると開けられないほどの鍵ではないが、ドア越しに複数の気配がする。
「やれやれ。ま、ここはリッちゃんの顔を立てておくか」
不精ヒゲの生えたアゴをひとつ撫でるとリョウジはベッドに潜り込む。


22 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:08:58 ID:voYtx73G
翌朝、シンジ達は護衛とも監視とも取れる衛兵達に伴われて訓練場に向かった。
「お前、何かしでかしたのか?」
そう尋ねる師匠に、愛想笑いをしてごまかすシンジ。
迷宮に潜り始めるまでの間、エヴァに関しては秘密にしておく様に口止めされているのだ。
それよりもシンジはアスカの態度が気になっていた。
今朝もずっと押し黙ったままなのである。
リョウジによれば「プライドが高いから」という事なのだが、シンジは不安でたまらない。
あれほどの口数がぱったりと途絶え、挨拶に返事も返さない。
かと胃って呆けている訳でもなく、深く静かに考え込んでいる様子なのだ。
天才は脆い。
初めての失敗がどんなに些細な出来事であろうとも、その衝撃は回復不可能な痛手となる。
村の古老が聞かせてくれた話を思い出す。
楽神の申し子と呼ばれていた少年が奉納神楽の演奏をしていた時にミスをした。
以来、少年は楽器を持つと手が震え出し2度と楽器を奏でることができなくなったという。
だから凡人であるお前は失敗を恐れるな、というのだ。
「大丈夫かな」
黒いカーテンが引かれた建物を見やるシンジ。
アスカが魔術師としての修行をしている建物だ。
集中力を高める為に外界からの刺激を徹底的に防いでいる…らしい。
師匠が言うには、そんな環境でも初歩の呪文をモノにできるまでに一週間はかかるそうだ。
「集中力が足らんなぁあ。そんなに気になるか?んん〜ん?」
いつの間にか師匠がシンジの横に来てにやにやしている。
「いっいえ!あの、気になんか、していません」
声が裏返るシンジ。
不意に声をかけられたのにも驚いたが、師匠の気配がまったくしなかった事に唖然としたのだ。
「驚く程の事じゃないだろ。俺は盗賊だぜ?こん位のことが出来なくちゃ仕事にならんさ」
「は、はい」
「これじゃお勉強にはならんな…。簡単な実技をしてみるか」
少し考えてから、師匠が部屋の隅にある木箱を指差す。
「この箱の鍵を開けてみろ。さっき教えた罠のどれかがセットされている」


23 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:09:25 ID:voYtx73G
「本物、なんですか?」
シンジの咽喉がゴクリと音を立てる。
「当然。緊張感が増すだろ?」
「もし、もし失敗して死んだりしたら…」
「心配ない。墓は立ててやる」
そんな、と言おうとしてシンジは思いとどまる。
いつかはやらねばならない事なのだ。
ここは地上だし、師匠だって見ていてくれる。
「やります」
木箱の前に屈み込んで七つ道具に手を伸ばす。
落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせながら周囲を調べていくシンジ。
蓋にそっと聴診器を当てて中の音を聴く。
蓋の継ぎ目に紙を差し込み感触を確かめる。
薄い鉄板を丁寧に差し込みわずかな隙間を作ると匂いを嗅ぐ。
鏡を使って鍵穴の中を見る。
木箱の外部の変色具合を確かめる。
細長い針金を取り出すと鍵穴に差し込んで嗅ぎの構造を確認する…。
「ん〜良いぞぉ。五感を全て使え。そして考えろ。最後にモノを言うのは勘だぞ」
師匠が楽しそうに激励する。
師匠の能天気な声にシンジの脳細胞が反応する。
そして、師匠が何故平然としているのかを考える。
シンジが失敗すれば巻き添えを食うはずなのだ…何故?。
師匠はダメージを受けない確信がある、とシンジは結論した。
それを前提に罠の種類を推測すると…テレポーターでも爆弾でもガス爆弾でもない。
石弓は複数セットされている場合もあるから、これも違う。
ブラスターと、アラームかスタナー、そして毒針の可能性が高い。
落ち着け落ち着け!どれが当っても死なないんだ!
自分にそう言い聞かせてシンジは木箱の前に横たわり、2本の針金で慎重に鍵を開ける。
指先に手応えがあり、カチャンという金属音が響く。
「開けます」
右手に持った鏡で中を確かめながら、左手に持った棒でゆっくりと蓋を押し上げていく…。


24 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:10:01 ID:voYtx73G
蓋の縁に毒針らしい物は無い。
不用心に蓋に手をかけて毒針の餌食になる者は意外に多いのだ。
シンジはそろそろと左手の棒を差し上げる。
間口が10cm程開いた所で四角い木片をかませると、空いた左手でランプを持つ。。
そしてゆっくりと左右に動かして見るが、木箱からは何の反応も無い。
光と熱に飯能が無いのなら石弓の可能性も無いはずだ。
宝箱を強奪しようとする者に対して無条件に発動する有効な罠を考える場合、動物の特性
を考える必要がある。
例えば人間は二本足で移動し、体温を一定に保ち、呼吸によって二酸化炭素を吐き出す。
心臓が鼓動する度に血液が全身を駆け巡る。
人間が行動する時には、実に様々な痕跡が周囲に溢れ出ているのだ。
もし、宝箱にそれらを感知するセンサーが備え付けられていたらどうだろう?
熱源が近付けば、その時点で宝箱の罠が起動する。
呼吸を乱して開錠作業に熱中していると、内部の罠が静かに獲物を狙っている。
石畳の床を無遠慮に足音粗く近付いて行くなら、それは自ら標的になろうとしている様なものだ。
薄暗い地下迷宮において宝箱の内部に光が差し込む時とは、何者かが蓋を開けた時に他ならない。
罠を仕掛けようとするなら、これらの現象を利用しないはずがない。
…実際、恐ろしく智恵の回る存在である。
シンジが隙間の前でランプを揺らしたのもこれらを確かめるのが目的で、単に内部を視認
する為だけではなかったのだ。
ランプの位置と鏡の角度を変えて木箱の内部を丹念に調べる。
カラのようだ。
緊張が見る見る弛緩していくシンジ。
「ひどいですよ、師匠」
苦笑いをしながらシンジが蓋を持ち上げる。
この時シンジがもう少し注意深く木箱の内部を観察していれば、木箱とその内部の深さが
異なっている事に気がついたのだが。


25 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:10:20 ID:voYtx73G
蓋がいきおい良く跳ね上がる。
それと同時に二重底がせり上がり、パキンという乾いた音と共に割れる。
飛び散った木っ端がシンジにも浴びせられる。
「ヒ!」
小さく息を呑むシンジ。
空中で真っ二つに割れた二重底の中には小さな巻物があった。
その巻物がゆっくりと開かれるにつれ、紫煙がゆらゆらと広がっていく。
ゆっくりと  ゆっくりと
まるでシンジを探すかの様にゆらゆらと広がっていく。
シンジの頭の中に何かが聞こえ始めた。
遠くで為される話し声のような、ぼそぼそと呟く声。
幾人もが声を合わせて歌う賛美歌のような、透き通った声。
遥か昔、母親の腕に抱かれて聴いた子守唄のような、柔らかい声。
それらの声が、音が、シンジの脳細胞に染み込んでいく。
シンジは抗う気力も湧かず、ただその心地良い波に全てを預けた。
精神は痺れ、肉体は弛緩し、シンジは眠りに落ちた。
二重底の中には、カティノの呪文が封じ込められていたのだ。

頬に強い痛みを感じてシンジが目を覚ます。
師匠の顔が見える。
「どうだ、気分は」
いかにも面白そうに、にやりと笑う。
数秒後、ゆっくりと上体を起こしながら途切れた記憶を遡るシンジ。
「僕は…そうだ、木箱が壊れて、不思議な声が聞こえて、それから…」
「カティノの呪文でぐっすり、さ」
湯気の立つカップを差し出す師匠。
「カティノ…あれは魔法なんですか」
薬草の様な匂いがするその液体は暖かい。
「香茶だ、飲め。美容・健康から気つけまで、なかなかに重宝する」


26 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:10:40 ID:voYtx73G
シンジは勧められるままに一口すする。
苦い。
だが、その苦味が脳細胞を活性化させ、眠っていた身体に活力をもたらしていく。
「そうだ。メイジのレベル1呪文・カティノだ。耐性が無いとあっと言う間に眠らされる」
師匠は相変わらずニヤニヤしている。
まるで悪戯が成功した時の子供のようだ。
「罠は本物だって言ったじゃないですか…」
無性に悔しくて、シンジが不満を口にする。
「本当に眠らされただろ?」
「教えられた罠にあんなのはありませんでした」
「教訓その1。今有る事の全てが、未来永劫ずっと有り続けると思うな」
「?」
「俺が教えてやった罠の数々は今まで俺達が出会ったヤツだ。ギルドに所属する仲間が情
報を持ち寄って集めた『現在』のデータだ、解るか?」
師匠の言葉の意味が解らないシンジ。
「情報を持ち帰られるのは生き残ったヤツだけだ。まだ誰も知らない罠に引っかかって死
んで行った仲間がいるかも知れん。俺達はあの地下迷宮の全てを知っている訳じゃ、無い」
師匠の言いたい事がなんとなく解ったシンジ。
「油断するな、って事ですね」
「そうだ。頭を柔らかくして色々な可能性を考えろ。…罠を特定する時、何を考えた?」
シンジは自分の推理を師匠に説明する。
「最初にしちゃあ悪くない。これで最後まで集中してりゃあなぁ」
「す、すみません」
「まぁいい。明日もたっぷりシゴいてやるからな。今日はこれで終わりだ」
「ありがとうございました。…ところで師匠。あの、『ギルド』って何ですか?」
「親睦団体を兼ねた組合だ。俺達に限らずニンジャやサムライにもギルドはあるんだ。各
職業毎に組織を創って仲間を統制したり仕事の斡旋をする。寄らば大樹の陰、だな。ま、
そのお陰で色々な情報が簡単に手に入るんで便利なものさ」
「僕も、ギルドの一員なんですか?」
「違う」


27 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:11:09 ID:voYtx73G
師匠の説明によれば、シンジ達は見習いだと言う。
ギルドが出資して創られた訓練所に入っているだけなのだ。
この訓練所は無料で技術を教える代わりに、一定期間ギルドの仕事を努めさせる。
「お礼奉公」と言うわけだ。
これによりギルドは若い労働力と次期構成員を獲得し、その勢力を維持できる。
ギルドからの脱退は自由ではあるが、貴重な情報源を失い活動に限界が生じるので脱退者
は少ない。
かくしてギルドは巨大な組織力を背景に表の世界の権力者も無視できない程の組織となった。
「一人でやりゃあコソ泥だが、王様の布令に賛同して集まれば技術者なんだよな。しかも
儲けは比べようもなくでかい」
師匠が真顔で言う。
「でも、危険が大きいんじゃあ…」
「ハイリスク・ハイリターンは望む所だ。問題は…」
「問題は?」
「ここから離れられん、という事さ。あの地下迷宮には何ともいえない魔力がある…」
不可思議な力に魅せられた男がそこに居た。

訓練を終えるとシンジは『ギルガメッシュの酒場』に行ってみた。
アスカやレイはまだ来ていないらしい。
独りで夕食を済ませるとリツコの研究所に向かう。
しばらくの間、昼はシーフの修行で夜はエヴァの制御訓練という日々が続くはずなのだが、
シンジは少し心配になっていた。
昨日はビクリとも反応を示さなかった「ショゴウキ」をどうやって覚醒させるか?
それが出来なければ、あの二人とパーティを組む事はできない。
せっかく掴んだチャンスを何としても活かしたい、と思う。
半人前のシンジとパーティを組む物好きはほとんどいないのだから。
それは、父の消息を探すシンジにとっては大きな障害になるのだ。
今夜こそ、エヴァを動かせるようになる!
そう決心して研究所の門をくぐったシンジは、地下実験室で驚くべき光景を見た。
アスカがツヴァイトを操っていたのだ…。


28 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:11:40 ID:voYtx73G
「どうして…昨日は全然ダメだったのに…」
アスカを心配していたシンジは、置いてけぼりを喰らった時の様な寂しさを感じている。
「神童と呼ばれていたと言うのも納得できる潜在能力ね」
いつの間にか後ろに立っていたリツコがシンジに話しかける。
「レイですらあそこまで操れる様になるには7ヶ月かかったのに」
リツコの唇が、ほんの少し歪む。
「7ヶ月…そんなに前から…」
「もっとも、実験体だったから仕方が無かったんだけれど」
そう言うとリツコは長煙管のタバコに火を点けてゆっくりとくゆらせる。
「アスカは…アスカは、どうしてあんな風に簡単に操れるんですか…」
アスカとツヴァイトから視線をそらさずにリツコが答える。
「…何も解っていないわね。いい事?彼女をよく御覧なさい」
言われるままにアスカを眺めるシンジ。
だが、シンジにはリツコが何を言わんとしているのか解らない。
リツコの長煙管がすうっと動き、剣を振るうツブァイトの前に直立しているアスカを指す。
「額に浮かぶ汗、張り付いた前髪、硬く結ばれた唇、握り締められた拳、身締められた両
足、荒い呼吸…アスカは必死よ。それが解らないの?」
突然アスカが崩ず折れ、次いでツヴァイトが糸の切れた操り人形の様に床に倒れる。
「活動限界は1分…この壁を突破するのは容易ではないわね」
腰の帯止めにつけられた時計を眺めてリツコが呟く。
「1分…それでも短いんですか?」
「そうね…せめて3分、可能なら5分は連続稼動させたいわね」
リツコとアスカを交互に見るシンジ。
四つ這いのアスカが拳で床を叩く。
二度程ゆっくりと深呼吸をしてアスカが片膝をつく。
ガクガクと震える膝を手で押さえつけ、上体をいきおい良くのけぞらせる。
長い金髪が緩やかな弧を描く。
その反動を利用して重心移動させ両足を突っ張る。
バランスを崩しながらも、アスカが立ち上がる。
「ツヴァイト!アタシは立ってるわよ。さあ立ちなさい!」
アスカの叱咤にツヴァイトが反応する。


29 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:12:02 ID:voYtx73G
引く唸り声を発して四肢に力を入れるツヴァイト。
自分の身体と、アスカから流入してくる動きのイメージが一致していないのだろう。
ギクシャクとした動きで剣を掴み、それを床に突き立てて支えにする。
「構えて」
ツヴァイトが剣を胸の前で立て、ゆっくりと前方に突き出す。
身体を半身にして、後ろ手はゆるやかに頭の後ろで構える。
アスカはツヴァイトにフェンシングを仕込んでいるのだ。
今、ツヴァイトの大脳にはアスカが体得しているフェンシングの動きがダイレクトに
伝えられている。
アスカはツヴァイトとのシンクロ訓練の最中に、ツヴァイトの教育も行っているのだ。
ツヴァイトの持つ剣が仮想敵の剣を受け、払い、弾き飛ばし、あるいは絡め取りそして…。
ツヴァイトが低く素早く跳躍し、右手の剣がまっすぐに突き出される。
「いい感じね。それを覚えておきなさい。さ、もう一度」
汗を滴らせながらもアスカは休もうとはしない。

「や、やぁアスカ。もうエヴァを操れるんだね…。やっぱりアスカは天才なんだね」
ようやく訓練を終えたアスカにシンジが挨拶する。
壁にもたれ、足を投げ出してレモネードを飲んでいたアスカがちらりとシンジを見る。
その眉間にシワがより、瞳が細くなる。
目を閉じてレモネードを一口飲むと、あからさまな嫌悪を押し殺して答える。
「当然じゃない。アンタみたいなデクノボーと一緒にしないでほしいわ」
皮肉の棘が生えた言葉が口から出る。
「ご、ごめん」
「…どうしてアンタと話すとイライラするんだろう?」
「え…」
「…さっさとアンタのエヴァを動かしてみなさいよ。アンタだけよ、動かせていないのは」
「…疲れているんだね、ごめん」
「他人の心配より自分の心配をしたら」
「ご、ごめん」
思わずアスカはシンジの足元にカップを投げつけた。


30 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:18:05 ID:JtBNNS8d
「天才」と言うモノは、何の苦労もせずにあっさりと常人の能力を凌駕するものだとアス
カは考えている。
結果が優れているからといってその人を天才などと軽々しく言ってはならない、とも思う。
郷里で「神童」ともてはやされていた頃、アスカの内面には葛藤が存在していた。

アタシは努力している。
アタシは天才じゃあない。
アタシは努力してその結果「神童」と呼ばれているだけ。
アタシが努力しないでいると、普通の子供になるんだろうか?
アタシが普通の子供になったら、パパやママはどう思うんだろうか?
アタシはずっと「神童」でいなくちゃあならないんだろうか?
アタシはこれからもずっとずっと努力し続けなければならないんだろうか?
アタシが努力し続けても、それは当たり前なの?
他の子供達が努力しなくても、それは当たり前なの?
何でも出来るアタシじゃなくて、なんでも出来る様に努力しているアタシを褒めて…。

アスカは天才だから。
アスカは特別だから。

…そうよ!アタシは特別なのよ!
努力もしないアンタ達とは違うんだから。

「よ、がんばってるなアスカ。だがな、無理はするなよ」
加持リョウジの言葉が、歪になりかけたアスカの心を優しく包む。
「ね、アタシは天才?」
「違うな。アスカはがんばり屋さんだよ」
「天才とがんばり屋さん、どっちが偉いの?」
「どっちも偉いさ。だがな…好きなのは『がんばっているアスカ』だ」
「…アタシ、がんばる!ずーっとがんばる…」


31 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:18:27 ID:JtBNNS8d
アスカから見れば、シンジは努力もせずに他人の結果のみを重視している様に思えたのだ。
天才?ふん。
そうよ、アタシは『努力する天才』だもの。
悔しかったらアタシ以上に努力して見せなさいよ。
ショゴウキの前で立ち尽くすシンジを見ながらアスカは思う。

昨夜からずっと考え続けていたんだから。
どうすればツヴァイトにアタシの考えを伝える事ができるか。
どうすればツヴァイトの感覚をアタシが感じ取れるのか。
…メイジの修行も役に立つもんね。
要は集中力なのよ。
アタシはアタシとして確固たる自我をもってツヴァイトとシンクロする。
アタシの念をツヴァイトに送り込み、ねじ伏せる。
ツヴァイトが感じる事全てを受け取り、修正して送り返す。
ツヴァイトの中に「もう一人のアタシ」を作り出せば自由に操れるはず。
そしてそれは上手く行っている。
残る問題は…ツヴァイトを操りながら呪文を唱えること。
教えられた呪文は長すぎて唱え難い。
術理を理解してアタシなりの呪文を作り出す必要がある。
…どう?努力って言うのはここまでするものなのよ。

相変わらずショゴウキの前でうろうろしているシンジがじれったい。
まったくもう!…ちょっと驚かせてやろう。
アスカはツヴァイトとの距離を測る。
ツヴァイトまで約10mね、届くかしら?
「バカシンジ!もたもたしてんじゃないわよ」
シンジを指差しながら怒鳴ると、ツヴァイトが立ち上がりその剣をシンジに向けて伸ばす。
悲鳴を上げて、シンジが両腕で頭を抑えてしゃがみ込む。
ぐわん!と言う鈍い音が実験室に響き、ツヴァイトの持っていた剣が床に落ちる。
ショゴウキの拳がツヴァイトの剣を叩き落としたのだ。


32 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:19:03 ID:JtBNNS8d
ツヴァイトの剣を叩き落し、低い唸り声を漏らすショゴウキ。
「ウソぉ!?」
アスカが驚きの声を上げる。
昨夜はぴくりとも動かなかったショゴウキが、私のツヴァイトの剣を叩き落している。
そんな驚きがアスカから滲み出ている。
「アイツ、どんな魔法を使ったの?」
だが、一番驚いているのはそのシンジなのだ。
あれほど必死になっていた時には何の反応もしなかったショゴウキが、動いているのだ。
目の前で低く唸り続けるショゴウキ。
じわり、とツヴァイトとの間合いを詰めて行く。
落ちた剣には手を伸ばさずにそのショゴウキに相対するツヴァイト。
「ふぅん、やる気?」
アスカがショゴウキを睨みつける。
「ちょうどいいわ。このパーティのリーダーをはっきりさせておこうかしら」
アスカが腰を落として身構える。
その動きをトレースするようにツヴァイトが続く。
シンジは…シンジは何もしていない。
だがショゴウキは確実にツヴァイトとの距離を詰めている。
そして…。
高く跳躍したショゴウキは巨体を捻って天井を蹴り、ツヴァイトの背後に回る。
ツヴァイトの右肘が唸りを挙げてショゴウキの顔面に迫る。
さらに腰を落としてその肘撃ちを避けると、低い体勢のままツヴァイトの脚を狙って飛び
込むショゴウキ。
その顔面をツヴァイトの膝が襲う。
ごつん、と言う鈍い音がして一瞬ショゴウキの動きが止まる。
そのショゴウキの後頭部にツヴァイトの右肘が振り下ろされる。
頭部に二つ、すさまじい衝撃を受けて足元がぐらつくショゴウキ。
が、その動きが止まったのは一瞬であった。
這いつくばる程の低い姿勢からツブァイトの腰に手を回すとそのまま持ち上げる。
一声吼えるとそのままツヴァイトを背中から叩きつける。


33 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:19:22 ID:JtBNNS8d
アスカの全身にその衝撃が伝わる。
アスカはツヴァイトとのシンクロに成功していた。
だからこそ、あのような動きが可能だったのだ。
だがそのためにツヴァイトの感覚がアスカへとダイレクトに伝わったのだ。
ツヴァイトの苦痛がアスカの苦痛となり、その集中力を奪う。
シンクロ率、低下。
それまでアスカが感じていたツヴァイトの感覚が急速に失われ、そして消え去る。
ツヴァイトの瞳から光が消え、全身から力が抜けていく。
ぐったりしたツヴァイトを見下ろしながらショゴウキが馬乗りになる。
そして…握り締めた拳を高く振りかざし、振り下ろす。
ごん、がつん、という耳を塞ぎたくなる様な音が実験場に響く。
「いや、いや、嫌ァーーーッ!」
アスカの絶叫が木霊する。
「危険ね…レイ、止めて頂戴」
リツコが命令するよりも早くレイがティアラを装着する。
立ち上がったゼロがショゴウキの後ろに迫り、ためらう事なく後頭部に蹴りを叩き込む。
つんのめる様にして床に倒れ、ぴくりとも動かなくなる。
「闘争本能だけは合格点ね。だけどこれを制御できるかしら…いえ、させなければね」
呆然とするアスカとシンジを見やりながらリツコが呟く。
とにもかくにも3体の巨人は目覚め、動いたのだ。
計画は動き始めた。


34 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:19:41 ID:JtBNNS8d
ギルガメッシュの酒場の裏庭に薪を割る小気味良い音が響いている。
手斧を扱うその手際は見事という他は無く、ムダな動きがない。
その人物は女であった。
やや青みがかった長髪を後ろで無造作に束ね、クビには手ぬぐいなぞをかけている。
ふぅ、と一息ついて汗を拭うと納屋の横に積まれた残りの薪を見る。
まだ半分以上もあるのだ。
この世界には「魔法」という全能とも思える力があるが、それは一握りの人達に恩恵をも
たらしているに過ぎない。
術者はその祈りを源として「魔法」を具現化させる。
その作業は延々と続くものであり、庶民がその対価を支払う事は困難となる。
結果、日常において代替えできるものは「魔法」を使わないのが一般的なのだ。
彼女は、ギルガメッシュの酒場において酔っ払った挙句に大立ち回りを演じてしまい、
ギルドの命令でボランティアをさせられているのだ。
ギルドの処罰には金銭による解決、と言う手段もあるのだが、彼女の場合その財産が膨大なため、罰金ははした金でしかない。
冒険者との喧嘩如きで、その財産を没収するというのも度が過ぎる。
かといって処罰なしではギルドの面子が立たない。
そこでこの処罰が為された。
彼女はリルガミンに集まる冒険者の中でも屈指の使い手とされており、また誉れ高いサムライでもある。
カタナを奪われ商人にこき使われる…これなら精神的に堪えるであろうとの判断だった。
彼女は確かに落ち込んだ。
だがそれはギルドの狙いとは少し異なったもので、酒を飲めない生活に落胆しただけだ。
彼女の名誉のために言えば、彼女ほど身分や地位・職業などに無頓着な人間もいない。
その女性の名前は…。

「や、葛城。元気そうだな」
「ん〜?どうしたの、加持君。…あんたもボランティア?」
「いや、君のいない酒場は寂しくてね、顔を見に来たのさ」
「ふぅん…待ってて、これ終わらせちゃうから」
そう言って鮮やかな手際で薪の山を作っていく。


35 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:20:04 ID:JtBNNS8d
「ボランティアはあと一日、だったな」
納屋の日陰に腰を降ろしたリョウジとミサトが茶を飲んでいる。
リツコから貰ったワインを持ってきていたリョウジだが、処罰中である事を理由にミサト
が固辞したのだ。
「でぇ?ただの顔見世じゃあないんでしょう」
「…葛城。もう一度、俺と組まないか?」
「ナニナニ?まだ私に未練があるワケぇ?」
おちゃらけるミサトとは対照的に、リョウジの表情は硬い。
「正直、未練は大アリさ。だがな、今度の事はそれとは関係ない。…どうだ、やるか?」
「ん〜、どっしょっかなぁ〜」
「…りっちゃんが妙な事を始めている。ゲンドウ隊長の息子さんを巻き込んでな」
リツコは二人の共通の友人だ、引き込むネタとしては悪くない。
しかしミサトが飯能したのはもうひとつのネタである。
「隊長、子供が居たの?…て言うか、奥さん居たの!?」
「どうやら十年程前に亡くなられたらしい…」
「それで、なの?」
ミサトの声が湿り気を帯びる。
「解らん。だがりっちゃんは今やキール国王の重臣だ。何を考えているのか、確かめたい」
「…どっちを?」
「両方、だな」
「確かめたら?」
「場合によっては」
リョウジは言葉を切り、両手で何かを握り潰す真似をする。
「ヘタをすればここを追われる…どうだ、付き合うか?」
声の調子はおどけたものだが、その内容は申告だ。
「どうせ独りでもやる気でしょう?報酬はなに?」。
「まごころを、君に」
一瞬、目をパチクリさせたミサトの肩が震え出す。
「…怒ったか?」
「その話、のった!天下一のニンジャに忠誠を誓われるとは、気持ちがいいわね」
そう言ってミサトは笑った。


36 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:20:43 ID:JtBNNS8d
次の日の夕刻、ギルガメッシュの酒場にビールをぐいぐいと飲み干すミサトの姿があった。
「ぷッはーーーーーッ!やっぱ、コレが無くちゃ、人生楽しくないわぁ!」
久しぶりの咽喉越しにご満悦のミサト。
ウェイトレスも心得ていて、良く冷やしたビール樽をテーブルに運ぶとセルフで好きにさ
せている。
ちなみに樽はダルトの魔法によって一定期間冷気を保っている。
ギルドによる強制労働や、ツケがたまり過ぎてどうにもならなくなった冒険者達がこの様
な形で働かされているのだ。
しばらくするとリョウジがやってくる。
「ゴキゲンだな葛城。ところで他のメンバーはどうした?」
「ん〜チョッチ待って…これを片付けてから」
そう言うと樽を持ち上げて最後の一滴まで飲む。
「…禁酒、そんなに辛かったのか?」
「いやもう2度とごめんだわね…さてと。こっちいらっしゃい」
ミサトが後ろのテーブルに声をかけると三人の男女が立ち上がる。
「加持君、紹介するわ、これが私達の新しい仲間よ。既に貴方の事は話しているから」
「始めまして。加持リョウジです」
立ち上がったリョウジが右手を差し出すと、三人は次々とその手を握る。
「ご高名はかねがねお聞きしています。実力1のニンジャ・マスターと組めて光栄です」
「加持さんもセンパイと組んでいたんでしょう?その時の話、聞かせてくださいね」
「自分は新しい職業を創る事に夢をかけているッす。ニンジャの仕事、参考にさせて頂け
ればありがたいッす」
「え〜と最初の彼氏がマコト君。僧侶からサムライに転職して間も無いのよ。次の娘が
マヤ。なんとリツコを尊敬しちゃってて同じビショップでレベル17。最後はシゲル君…」
「どうした?」
「う〜ん…メイジとしてならマスターレベルを越えたのよ。でもね、新しい職業の開祖に
なりたくていろいろな職業を体験修行中なの」
突然シゲルが話しに割り込んでくる。
「その通りッす!自分は『歌って戦える冒険者』を目指してるッす。ある程度の感触は
あります!あとは自分に実践する才能があれば…」


37 :名無しさん@まいぺ〜す:04/11/10 23:21:06 ID:JtBNNS8d
やや引き気味になりながらもリョウジは彼に応える。
「…そりゃまた豪快な目標だな。がんばってくれ」
「ありがたいッす。特性値が足りなくてニンジャの修行は出来なかったッす」
「…どうでもいいが、オレ達はもう仲間なんだ。…その『ッす』はやめよう。気楽にな」
リョウジの言葉に見る見る緊張が緩むシゲル。
「なんだ、意外に話せる人じゃんか。あ〜良かった。無礼者!とか言われてクビ切られる
かとヒヤヒヤしてたんだ、オレ」
「緩みすぎだよ。…加持さん、コイツも案外良いヤツですから気を悪くしないでください」
マコトがシゲルを嗜める。
「お前こそ、ミサトさんの魅力に惹かれてこの話に乗ったクセに」
「二人共…恥ずかしいからやめてよもぅ…」
マヤが俯いて呟く。
「じゃ、これから私達が何をするのか簡単に教えてくれる?加持君」
「今、キール国王と赤木大司教が何事かを企んでいる。その謎を調べる」
「センパイが?それって…」
リョウジの言葉に、真っ先にマヤが反応する。
「そうだ。キミの敬愛する赤木大司教の秘密をも暴く事になる。いや、場合によっては
助ける事にもなる、かな?」
「何がどうなっているのか、説明して貰えませんか?」
マコトの質問は正論である。
リョウジは、ここしばらく彼が見聞した事と考えた事をミサト達に話した。
「…つまり、加持君はそのエヴァと言うホムンクルスに重大な秘密を感じたのね?」
「そう言う事だ。しかもキール王とりっちゃんとの関係も気になる…りっちゃんは、ただ
命令されて仕事をする様な人間じゃあない。だがあんなものを喜んで創るとも思えん。
アレは…禍々しい存在に思えてならない」
「で、その謎を調べてどうするんです?」
マコトがもっともな質問をする。
そうなのだ。
彼等…冒険者は地位や名誉や金が目的でココにいるのだ。
何の報酬もない出来事に好んで首を突っ込むほど物好きではない。
「あたしはやります!先輩の事を理解する、いい機会ですから」


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